2009/03/20

プラッタ容量と速度の実際(評価)

ベンチマーク結果について、その意味するところを評価してみる。勿論、正確なところはHDDメーカーの人しか分からないだろうから、そういう前提で。

(このエントリは一続きのエントリの3/5)

3.1. ベンチマーク自体について


基本的に、複数のベンチマーク結果が傾向として一致しているので、HDDの素の性能を反映していると考えてよいと思う。
  • パーティションがない状態でも傾向として一致しているので、ファイルシステム/クラスタサイズ/フラグメンテーションによる影響はない。
  • 健康状態に問題のある個体はない。
  • PC本体のインターフェイス/電源供給能力がネックになっている兆しはない。

3.2. 5K320-80について


2台の5K320-80について、HD Tune ProのBenchmark(Read)の結果を重ねると(5K320-80aのグラフから読み取った値を5K320-80bのグラフ上に作図)以下のようになる。
Travelstar 5K320-80 a&b: HD Tune Pro Benchmark (Read)

この2つの個体は製造時期も同じ、工場も同じ(Travelstarは全部タイ製だが)、ファームウェアも同じなので、記録面の個体差と考えてよいと思うが、結構な差が出ている。先頭で5MB/sの差があり、一貫して5K320-80bの方が高い。この差があって同じ容量ということは、5K320-80bの方が線記録密度が高くて、トラック数が少ないと考えるのが自然。

先のホワイトペーパーによれば、記録面ごとに線記録密度は違うので、それはすなわち記録面ごとにトラック数も違うということになるはず(トラック数が一定とすると、容量を調整できなくなる)。これを敷衍すると、複数の記録面を持つHDDでは記録面ごとにトラックの数/間隔/位置が違うことになり、全記録面に共通するシリンダという概念が成立しなくなるが、どうなのだろう。

3.3. 5K320-120と5K250-120について


公称スペックから予想されるとおり、ほとんど同じ。最大速度は5K250-120の方がわずかに高い(スペック上の線記録密度(最大)は5K250-120の方がわずかに高い)。
Travelstar 5K320 and 5K250: 120GB: HD Tune Pro compiledTravelstar 5K320 and 5K250: 120GB: Sandra Lite Benchmark (Physical Disks)

3.4. 5K320-250と5K250-250について


2つの5K320-250の差が激しい。5K320-250bは公称スペックから予想されるとおり、160GBプラッタ組を上回っている。線記録密度(最大)の差1207-1154=53(KBPI)にしては、差が付きすぎている感じもあるが。

一方の5K320-250aは、むしろ5K250-250にかなり近い。というか、最大速度では負けている。
Travelstar 5K320 and 5K250: 250GB: HD Tune Pro compiledTravelstar 5K320 and 5K250: 250GB: Sandra Lite Benchmark (Physical Disks)

もしやと思ったのは、公称スペックでは5K320-250は3ヘッドであること。これが4ヘッドになっていた場合、2プラッタ4ヘッドで250GBの容量となり、5K250-250と条件が同じになる。それに合わせた記録密度になっていれば、速度が近くても不思議ではない。

問題は、ヘッドはサスペンションやアームを含めても非常に軽いので(1g以下)、プラッタ(単体で5g程度)と違って重量から確認できないこと。完動している機械を壊すのはモノに対する態度として気が進まないが、他に方法がないので、5K320-250aの上蓋を開けてみることにした。

ネジ7本(T6×6、T5×1)を外して、上蓋を開ける。
Travelstar 5K320-250: Screws removedTravelstar 5K320-250: Top cover opened

さてヘッドはと見ると、
Travelstar 5K320-250: Heads

ビンゴ。ヘッドはしっかり4つある。さすがに、公称スペックと明らかに違うというのは新鮮。まあ、「仕様は予告なく変更することがあります」ということか。

Oct-08製造の5K320-250bは公称スペックどおりのようなので、あえて想像すれば、シリーズ最高の記録密度の記録面は歩留まりが低かったので、記録密度を下げたというのが直球だが、5K320-250aはFeb-09製造で、習熟度も上がりきった頃だろうし、より記録密度の高い5K500.Bの生産も始まっているしで、謎。

ちなみに、5K320-250aは上蓋を開けて写真をとった後、起動してみたら既に死んでいた。他にも試したいことがあったのに。

3.5. 5K250-80について


公称スペックから予想されるとおり、5K250の中では飛び抜けて遅い。

以前に5K160-80(1プラッタ2ヘッドで80GBの容量なので、5K250-80と同じ条件)をCrystalMark 2004で計測した記録があったので、ほぼ同じ条件(環境は一部ドライバを更新したのみ。設定はデフォルトで、5回連続して計測した値から最高と最低を除いた平均をとる)で計測したのが以下。
Travelstar 5K250 and 5K160: CrystalMark 2004

5K250-80は5K160-80と同じか、やや下回る。この2つは公称スペックでは線記録密度(最大)が902(KBPI)で同じなので、それが反映されたということか。

3.6. 5K320-80と5K320-160と5K320-320について


160GBプラッタ組について、個体差がありそうだが、5K320-80a以外は最大速度が比較的近い。なお、記録面数(=ヘッド数)と速度の間に有意な相関関係がある兆しはない。1ヘッドの5K320-80bが4ヘッドの5K320-320に最大速度で優るぐらいなので。

この容量の記録面では、後述のSpecificationの例によれば、最外周のゾーン0のトラック当たり容量は約738KBになる。CrystalDiskMarkのテストサイズを100MBとすると、100MBは約135のトラックに当たるので、この実行中は少なくともこのトラック間の移動が発生することになる。1ヘッドでは同じ記録面を移動するだけなのに対し、4ヘッドでは記録面間の移動も入るはずだが、違いは分からない。

現在のHDDでは記録面ごとにサーボ情報を見てトラッキングするようなので、記録面間の移動でも単にヘッドを電気的に切り替えるだけでなく、何某かのシーク動作も入るとすれば、同じ記録面での移動と変わらないのかもしれないと思う。

[追記]

HD Tune ProのRandom AccessにおけるIOPSとアクセスタイムを見ても、記録面の構成にかかわらずほとんど同じか、差があっても記録面数と有意な相関関係は見られない。すなわち、記録面数が多い方がシーク動作が少なくなってアクセスタイムが短くなるという現象は見られない。

3.7. 5K250-200について


5K250-200は5K250のSpecificationにないが、5K250の中での速度は思考実験で計算した記録密度から外れてないように思う。

3.8. 5K500.Bについて


5K500.B-500は5K500.B-250を最大速度で5MB/s上回るが、記録面の個体差か。

3.9. Travelstar全体について


記録密度と速度の関係について、内部転送速度は線記録密度の関数と見なし、線記録密度と直接ではなく、公称スペックの内部転送速度とベンチマークの実測値(CrystalDiskMarkのSeq. Read)を比較してみる。
  1. まず内部転送速度の単位をMiBに変換する。すなわち、内部転送速度(Mbps)÷8(byteへ換算)×{1000^2/1024^2(MBからMiBへ換算。公称スペックの中ではK=1000なので)}。
  2. この内部転送速度(MiB)でベンチマークの実測値を割ると、比率が出る。
  3. さらに、中間辺りの5K320-320の比率を基準として、他も同じ比率と仮定してモデルごとの内部転送速度に掛けると、仮定値が出る。
  4. 実測値と仮定値との差から、速度のバラツキが出る。
これを表にまとめると以下のようになる。
略称
(便宜的に)
公称
スペック
公称
スペック
より計算
ベンチマーク
結果
公称スペックと
ベンチマーク結果
より計算
内部転送
速度
Data
transfer
rates
(buffer
to/from
media)
(Mbps)
内部転送
速度
(MiB/s)
CrystalDisk
Markによる
Seq. Readの
実測値
(MiB/s)
内部転送
速度と
実測値の
比率
5K320
-320の
比率を
基準とした
仮定値
(MiB/s)
実測値と
仮定値と
の差
(MiB/s)
Travelstar 5K250
5K250-8053063.1846.040.7344.551.48
5K250-12064376.6554.550.7154.050.50
5K250-16061973.7948.680.6652.03-3.36
5K250-200--50.20---
5K250-25066579.2759.730.7555.903.83
Travelstar 5K320
5K320-80a72986.9057.830.6761.28-3.45
5K320-80b72986.9063.340.7361.282.05
5K320-12067480.3553.620.6756.66-3.03
5K320-16072986.9064.900.7561.283.62
5K320-250a77592.3955.510.6065.15-9.63
5K320-250b77592.3968.390.7465.153.24
5K320-32072986.9061.280.7161.280.00
Travelstar 5K500.B
5K500.B-250875104.3184.310.8173.5510.76
5K500.B-500875104.3189.610.8673.5516.06
  • 内部転送速度と実測値の比率は、5K250と5K320は大まかに0.7前後(5K320-250aは公称スペックと実物が違うので除外)、5K500.Bは0.8台。

  • 5K250と5K320の実測値と仮定値のバラツキは上下に3MB/s台(5K320-250aは同じく除外)。個体差と考えればこんなものかもしれない。
  • 5K500.Bで比率が上がっているのは、プラッタとの内部転送から先の性能も上がっているのだろうと思う。

3.10. 5400.5について


5400.5-160と5400.5-320は、最大速度が大体同じで(5400.5-160の方が少し高い)、ある意味理想的なグラフになっている。

ちなみに、シリーズ最大容量が同じ5K320と比べて、シーケンシャル・アクセスでは速いが、ランダム・アクセスでは遅い。

3.11. 全体を通して


共通の傾向として、
  • グラフは概ね上に膨らんだ弧を描く(縦軸に速度、横軸に容量ベースの位置をとった場合)。これは縦軸方向の速度はトラック当たりセクター数と正の相関関係にあるので直線的に下がるのに対し、横軸方向は容量ベースであるが故に(HDDの外からはそれしか観測のしようがない)伸びが指数的に減っていくから。円弧と円面積の関係。

  • 同じシリーズでは先頭の最大速度での差に比べ、末尾の最低速度では差がかなり縮まる。これは個別に見れば最低速度は最高速度の50%前後で大体揃っているので、変ではない。
ベンチマークについては以上だが、補足を次に。

プラッタ容量と速度の実際(ベンチマーク)

実際に試したHDDとベンチマーク結果はこんなもの。

(このエントリは一続きのエントリの2/5)

2.1. ベンチマーク対象


ベンチマークを行ったのは最終的に以下の16台。
略称
(便宜的に)
容量
(GB)
型番プラッタ
ヘッド
製造
年月
(注1)
ファーム
ウェア
重量
(g)
(注2)
Travelstar 5K250
5K250-8080HTS542580K9SA0012May-08BBBOC31P89
5K250-120120HTS542512K9SA0012Nov-07BB2OC31P91
5K250-160160HTS542516K9SA0023May-08BBCOC31P99
5K250-200200HTS542520K9SA0024Oct-07BBDOC31P99
5K250-250250HTS542525K9SA0024Jun-08BBFOC31P99
Travelstar 5K320
5K320-80a80HTS543280L9A30011Sep-08FB1OC40C87
5K320-80bSep-08FB1OC40C87
5K320-120120HTS543212L9A30012Oct-08FBBOC40C87
5K320-160160HTS543216L9A30012Apr-08FB2OC40C87
5K320-250a250HTS543225L9A30023Feb-09FBEOC40C96
5K320-250bOct-08FBEOC40C97
5K320-320320HTS543232L9A30024Aug-08FB4OC40C97
Travelstar 5K500.B
5K500.B-250250HTS545025B9A30012Feb-09PB2OC60G89
5K500.B-500500HTS545050B9A30024Feb-09PB4OC60F99
Momentus 5400.5
5400.5-160160ST9160310AS122008/11SD0389
5400.5-320320ST9320320AS242008/06030398
(注1)5400.5の場合は保証期間(工場出荷から5年間)から逆算したもの。
(注2)キッチンスケールによる実測値。
  • 主な対象は5K320と5K250で、この2つのシリーズは容量が近く(容量別では4つまで共通)、その他のスペックはキャッシュ容量(8MB)を含めて大体同じなので、プラッタによる違いを観察できると期待。
  • 5K320-80と5K320-250が2台あるのは、最初に入手した個体の結果が腑に落ちなかったので、追加したもの。
  • 5K500.Bと5400.5は同じプラッタ容量の1プラッタと2プラッタの増量分。
重量の実測値からプラッタ数は公称スペックどおりであることが確認できる。

5K250と5K320の外観。下段が5K250で上段が5K320。ほとんど同じだが、裏面のPCBはレジストのバリエーションが意外にあるので、緑系のグラデーションができそう。
Travelstar 5K250 and 5K320Travelstar 5K250 and 5K320

5K500.Bと5400.5の外観。基本的な配置は同じだが、ラベルの向きが上下逆になっている。裏面は意外に違いが多い。例えば、スピンドルモータへの配線が5K500.Bは4本であるが、5400.5は3本である。
Travelstar 5K500.B and Momentus 5400.5Travelstar 5K500.B and Momentus 5400.5

なお、この中で5K320-160と5K320-320、5400.5-320は使用歴があるが、他はほとんど新品。

2.2. ベンチマーク方法


ベンチマーク方法は以下のとおり。こんなことは二度とやらないだろうからなるべくやってみたが、正直骨が折れた。
  • 全体を通しての速度計測のため、パーティションなしの状態で、HD Tune Pro 3.50のBenchmarkのRead/Write、Random AccessのRead/Writeの4セットを実行。設定は「Test speed/accuracy」をAccurate側一杯にした以外はデフォルト。
  • 同じく、パーティションなしの状態で、Sandra Lite 2009.SP2 [2009.1.15.72]のPhysical DisksのBenchmarkのReadを実行。
  • 先頭及び末尾の速度計測のため、先頭と末尾に300MBのパーティション(NTFS、クラスタサイズ4KB)を作成し、CrystalDiskMark 2.2を実行(テストサイズを100MB、試行回数を5とし、3回連続で計測した値の平均をとる)。
  • 先頭の速度確認のため、先頭300MBのパーティションに対し、HD Tune ProのFile Benchmarkを実行。
  • 同じく、先頭300MBのパーティションに対し、Sandra Lite 2009.SP2のFile SystemsのBenchmarkを実行。
  • 健康状態に問題がないことの確認のため、CrystalDiskInfo 2.5を実行。
計測環境は以下のとおり。
  • 対象のHDDをThinkPad X60sの本体コネクタに接続し、ウルトラベースX6から起動したSSDからベンチマークを実行。OSはWindows XP SP2、ドライバ等は大体2009年2月時点のもの。
  • キャッシュを含めて実際の使用場面と同じ状態で計測するポリシーなので、キャッシュを切るような特別なことはしない(「ディスクの書き込みキャッシュを有効にする」にチェックした状態)。
  • TravelstarはAAMを無効にした状態とする。
ちなみに、驚いたことにFeature ToolのVer.2.13のリリースノートに「Removed the function of acoustic management.」とあり、実際にAAMの機能がばっさり消え、マニュアルからも消えていた。HDDの方はVer.2.12で確認したところ、5K500.Bでもサポートはされていた。ただ、元からシーク音は小さいので、有効にしても違いはほとんど分からなかった。標準で十分静かになったので、もうAAM設定は無しでよいとしたのかもしれない。

2.3. Travelstar 5K320と5K250


先頭300MBと末尾300MBに対するCrystalDiskMarkの結果。
Travelstar 5K320 and 5K250: First 300MB: CrystalDiskMarkTravelstar 5K320 and 5K250: Last 300MB: CrystalDiskMark

先頭300MBに対するSandra LiteのFile SystemsのBenckmarkの結果。
Travelstar 5K320 and 5K250: First 300MB: Sandra Lite Benchmark (File Systems)

HD Tune ProとCrystalDiskInfoの結果。
Travelstar 5K320: HD Tune Pro, CrystalDiskInfoTravelstar 5K250: HD Tune Pro, CrystalDiskInfo

これだけでは比較しにくいので、HD Tune ProのBenchmark(Read)のグラフを5%ごとに読み取って作図した(HD Tuneは値によって自動的にスケールが変わるので、グラフを直接重ねられない)。バラツキが大きいので直接結ぶことはせず、近似曲線を引いた。
Travestar 5K320: HD Tune Pro compiledTravelstar 5K250: HD Tune Pro compiled

Sandra LiteのPhysical DisksのBenchmark(Read)の結果。こちらも近似曲線で示した。
Travelstar 5K320: Sandra Lite Benchmark (Physical Disks)Travelstar 5K250: Sandra Lite Benchmark (Physical Disks)

2.4. Travelstar 5K500.B


先頭300MBと末尾300MBに対するCrystalDiskMarkの結果。
Travelstar 5K500.B: First 300MB: CrystalDiskMarkTravelstar 5K500.B: Last 300MB: CrystalDiskMark

先頭300MBに対するSandra LiteのFile SystemsのBenckmarkの結果。
Travelstar 5K500.B: First 300MB: Sandra Lite Benchmark (File Systems)

HD Tune ProとCrystalDiskInfoの結果。
Travelstar 5K500.B: HD Tune Pro, CrystalDiskInfo

同じく、HD Tune ProのBenchmark(Read)のグラフから作図。
Travelstar 5K500.B: HD Tune Pro compiled

同じく、Sandra LiteのPhysical DisksのBenchmark(Read)の結果。
Travelstar 5K500.B: Sandra Lite Benchmark (Physical Disks)

2.5. Momentus 5400.5


先頭300MBと末尾300MBに対するCrystalDiskMarkの結果。
Momentus 5400.5: First 300MB: CrystalDiskMarkMomentus 5400.5: Last 300MB: CrystalDiskMark

先頭300MBに対するSandra LiteのFile SystemsのBenckmarkの結果。
Momentus 5400.5: First 300MB: Sandra Lite Benchmark (File Systems)

HD Tune ProとCrystalDiskInfoの結果。
Momentus 5400.5: HD Tune Pro, CrystalDiskInfo

同じく、HD Tune ProのBenchmark(Read)のグラフから作図。
Momentus 5400.5: HD Tune Pro compiled

同じく、Sandra LiteのPhysical DisksのBenchmark(Read)の結果。
Momentus 5400.5: Sandra Lite Benchmark (Physical Disks)

結果は以上のとおりで、数字が全てを物語っているが、一応次に評価を。

2009/03/19

プラッタ容量と速度の実際(スペック)

HDDの速度にこだわるのも、SSDに軽く周回遅れにされている中で今更だが、プラッタ容量と速度の関係について少し調べてみた。

(このエントリは一続きのエントリの1/5)

[参考] HDDについての基本情報
ITPro: ハードディスク・ドライブの内部構造
PC Online: ハードディスクドライブのすべて
StorageReview.com: Reference Guide - Hard Disk Drives
(一部の情報は古いので、要注意)

1.1. はじめに


プラッタ容量というか、記録密度と速度の間に相関関係があるのは、原理的にも経験的にも明らかだが、それが実際の製品にどう出てくるかとなると、あまり確たる答がない。原理的な説明はあっても、HDDメーカーが実際の製品にどうインプリメントしているかはほとんどブラックボックス。ベンチマーク結果はそれなりに出ていても、環境がバラバラではHDDの差か環境による差か判別し難い。

そこで、公称スペックを参照しつつ、プラッタ容量を意識して同一環境の下で試すことにした。

結論を先にいえば、自分も誤解していたが、同じシリーズ(世代)のHDDならプラッタ容量は同じ、ではないし、同じシリーズで同じプラッタ容量なら速度も同じ、ではない。既に言われてきたことの確認だが。

実際に試したのは計16台。Travelstar 5K2505K320の全ての容量別モデル、Travelstar 5K500.BとMomentus 5400.5の1プラッタと2プラッタの最大容量モデル。HGSTが主なのは、公開情報の量とバルク市場での容量別モデルの入手性の面で、他に選択肢がないから。Western Digitalと富士通は公開情報が少なすぎるし、Seagateと東芝も流通している容量別モデルは限られる。
16 HDDs

1.2. 公称スペックから分かること


2.5インチHDDは、例外を除いて1プラッタか2プラッタなので、ヘッド数(=記録面数)は最大4。あるシリーズの最大容量のモデルは、2プラッタ4ヘッドの構成で、記録面はシリーズ最大容量(利用可能な全部の面積を使ってシリーズ最高の記録密度でフォーマット)となる。記録面がこれと同じになるのは、以下のモデルの場合。
  • 容量が最大容量モデルの3/4: 2プラッタ 3ヘッド
  • 容量が最大容量モデルの1/2: 1プラッタ 2ヘッド
  • 容量が最大容量モデルの1/4: 1プラッタ 1ヘッド
問題なのは、これと同じ容量でもプラッタ/ヘッドの構成が違うモデルや、これらに当てはまらない中間的な容量のモデルの場合で、記録面としては2通りの可能性が考えられる。
  1. 同じ記録密度の記録面を一部の面積だけ使っている。外周部から必要な容量分だけ使うなど。この場合、遅い内周部を使わない分、平均速度は上がるはず。

  2. 記録密度自体を下げている。線記録密度は同じで、トラック密度だけ下げるのであれば、原理的には速度上のハンデはないが。
なお、これは全ての記録面に共通という前提。HDDは全ての記録面を均等に使っていくので、容量の違う記録面を組み合わせる可能性は低いと思う。

HGSTの場合、公開情報のDatasheetを見る限り、あるシリーズの全容量別モデルについて面記録密度(最大)の記載が共通なので(シリーズによる)、A.だろうと思っていた。この「最大」という部分は、ZBR(Zone Bit Recording)方式では、一つのゾーン内でも外周と内周では線記録密度が変わるので、それぐらいの意味かと思っていた。

実際には、少なくとも最近のシリーズについてはB.である。同じく公開情報のSpecificationを見ると、各容量別モデルについて記録密度の記載がある。自分もSpecificationの存在は知っていたが、以前にあるシリーズのものを見たときは記録密度についてDatasheetを大きく越える情報はなかったので(シリーズによってDatasheetとSpecificationの間の記載の仕方が違う)、見落としていた。

Travelstar 5K160から5K500.BまでのDatasheetとSpecification(2009年2月時点)の記載を並べると以下のようになる。
容量
(GB)
プラッタ
ヘッド
DatasheetよりSpecificationより(注1)
面記録
密度
(最大)
Areal
density
(Gbits
/sq. in.
max)
内部転送
速度
(最大)
Media
transfer
rate
(Mbits
/sec,
max)
線記録
密度
(最大)
Recording
density
(KBPI)
(Max)
トラック
密度
(最大)
Track
density
(KTPI)
(Max)
面記録
密度
(最大)
Areal
density
(Gbit
/sq-inch
- Max)
内部転送
速度
Data
transfer
rates
(buffer
to/from
media)
(Mbps)
Travelstar 5K160
4011131.5540902146131.5540
601276912898.5466
8012902146131.5540
1202476912898.5466
16024902146131.5540
Travelstar 5K250
8012205665902151167530
120121076185200643
160231035172192619
20024-(注2)---
250241100186205665
Travelstar 5K320
80112507291154216250729
120121066182194674
160121154216250729
250231207216261775
320241154216250729
Travelstar 5K500.B
8011-(注2)-1305182242845
120113758751356259360875
160121305182242845
250121356270375875
320231356237329875
400241356215299875
500241356270375875
(注1)DatasheetとSpecificationでは用語や単位の表現が微妙に違う。
(注2)このモデルについてそれぞれ記載がない。

これから以下のようなことが分かる。
  • Datasheetの面記録密度(最大)と内部転送速度(最大)は、そのシリーズの最大容量モデルの値を記載しているだけ。シリーズ中の「最大」という意味ではおかしくはないが。

  • 容量別モデルの記録密度のバリエーションは意外に多い。5K250などは最高の記録密度なのは最大容量モデルだけ。5K500.Bでは同じく1プラッタと2プラッタの最大容量モデルだけである。

  • HDDメーカーは、プラッタ面積に余裕があるときはわざわざデータビットを詰め込んで高い記録密度でフォーマットせず、余裕をとって低い記録密度でフォーマットしている。なぜそうするのかを想像するに、密度はなるべく低い方が、エラーが減る=歩留まりが上がる=コスト削減、となるのではないかと思う。別の見方をすれば、高い記録密度による速度の速さはHDDメーカーにとって優先事項ではない

  • 5K250について、Specificationには200GBモデルの記載がない。このSpecificationの日付は2007年6月で、5K250の生産開始の頃ではないかと思うが、その後は更新されてない模様。また、5K500.Bについて、Specificationにある80GBモデルの記載がDatasheetにはない。こういうところを見ると、これらの文書の内容が最新という保証はない。

  • 5K320について、250GBモデルの方が320GBモデルより記録密度、内部転送速度ともに高いので、Datasheetの記載は実はおかしい。この点は最大容量モデルの値を引き写しただけという惰性を感じる。容量が240GBであれば、320GBモデルと同じ記録面×3で収まったのだろうが、10GB越えたために記録密度を上げる必要があったという、あまりない例。
  • 5K500.Bについて、記録密度のバリエーションは多いが、線記録密度(最大)を2つに固定してトラック密度(最大)で容量を調整している。このトラック密度が変わっても内部転送速度は変わらないので、内部転送速度は線記録密度の関数として扱われている。原理的にそれで不思議ではないが、実際の速度がどうなるかは別問題。
店によっては、同じシリーズのHDDには全て同じプラッタ容量の説明を付けているところがあるが、この時点で間違っている。

1.3. 思考実験してみる


容量別モデルによって記録密度が違うとして、記録面上の物理的なデータ領域の面積はどうなのかという疑問が生じる。利用可能な全部の面積を使うか一部だけを使うかで、物理的な記録面上の位置が変わる、つまりは線速度の影響が変わってくるので。

これは公称スペック自体では分からないので、公称スペックを元に計算してみる。
  1. まずHDDの容量を記録面数(=ヘッド数)で割ると、記録面ごとに必要な容量が出る。
  2. この必要容量をそのシリーズ最大容量の記録面の容量で割ると、最大容量の記録面に対してどの程度の容量が必要かという比率が出る。
  3. この比率と最大容量の記録面の面記録密度(最大)を掛けると、データ領域の面積が同じとした場合に、その記録面が必要な面記録密度(最大)が出る。
表にまとめると以下のようになる。
容量
(GB)
記録面
公称スペック思考実験
面記録密度
(最大)
(Gbits
/sq-inch)
記録面
ごとの
必要容量
(GB)
シリーズ
最大容量
の記録面の
容量との比率
必要な
面記録密度
(最大)
(Gbits
/sq-inch)
プラッタ
容量
(両面)
(GB)
Travelstar 5K160
401131.540100%131.5 80
60298.53075%98.6 60
802131.540100%131.5 80
120498.53075%98.6 60
1604131.540100%131.5 80
Travelstar 5K250
8021674064%131.2 80
12022006096%196.8 120
160319253.3 85%174.9 106.6
2004-5080%164.0 100
250420562.5 100%205.0 125
Travelstar 5K320
80125080100%250.0 160
12021946075%187.5 120
160225080100%250.0 160
250326183.3 104%260.4 166.6
320425080100%(注)250.0 160
Travelstar 5K500.B
8012428064%240.0 160
120136012096%360.0 240
16022428064%240.0 160
2502375125100%375.0 250
3203329106.7 85%320.0 215.4
400429910080%300.0 200
5004375125100%375.0 250
(注)5K320については、便宜的に320GBモデルを最大容量の記録面と見なす。

計算した必要な面記録密度(最大)が公称スペックの面記録密度(最大)に比較的よく合致するのが分かる。したがって、どの容量別モデルも、基本的に同じデータ領域の面積の全部を使ってフォーマットされていると考えてよいと思う。

容量別のプラッタ容量(両面)は、この前提で計算してみたもの。単に、そのモデルの容量を記録面数で割り、2を掛けただけだが。

もう一つ、内部転送速度は線記録密度の関数だとして、その係数を公称スペックから確認してみる。内部転送速度(最大)を線記録密度(最大)で割って比率を出すだけだが、表にまとめると以下のようになる。
容量
(GB)
公称スペック思考実験
線記録密度
(最大)
Recording
density
(KBPI)
(Max)
内部転送速度
Data
transfer rates
(buffer
to/from media)
(Mbps)
線記録密度と
内部転送
速度の
比率(係数)
最大容量モデルの
直前のシリーズから
の伸び率
線記録
密度
内部転送
速度
Travelstar 5K160
409025400.60

607694660.61
809025400.60
1207694660.61
1609025400.60
Travelstar 5K250
809025300.59 122%123%
12010766430.60
16010356190.60
200---
25011006650.60
Travelstar 5K320
8011547290.63 105%110%
12010666740.63
16011547290.63
25012077750.64
32011547290.63
Travelstar 5K500.B
8013058450.65 118%120%
12013568750.65
16013058450.65
25013568750.65
32013568750.65
40013568750.65
50013568750.65

まず同じシリーズの中では、係数はほぼ同じであることが分かる。

違うシリーズの間では、5K160と5K250の間では変わらないが、5K320、5K500.Bとなるにつれ少しずつ上がっている。最大容量モデル同士で直前のシリーズと比べた場合でも、線記録密度の伸び率を内部転送速度の伸び率が上回っている。ということは、線記録密度の向上以外にも何かが内部転送速度の向上に貢献していることになる。

1.4. 記録密度の個体差


記録密度と速度の関係を考えるには、記録面ごとの個体差の問題も頭に入れておく必要がある。自分も記録面にも個体差があるのだろうということは漠然と理解していたが、不良セクタの数(製造時からある、問題にならない部類の)ぐらいかと思っていた。実際には、記録面によって記録密度自体に個体差がある

これについて紹介したものをほとんど見たことがないが、Adaptive Formattingという技術がある。HGSTのAdaptive Formattingのホワイトペーパーには以下のような記述がある。
Each drive is individually tuned at the factory to match the heads and media used in that specific HDD. The media recording surface is formatted with an optimized Bits Per Inch / Tracks Per Inch (BPI/TPI) combination, depending on the performance characteristics of the head associated with that surface.
Using Adaptive Formatting, BPI can vary for each head/disk in the HDD. This creates variability both drive-to-drive and head-to-head.

要は、ヘッドには個体差があるので、それに応じて、相手になる記録面の線記録密度(BPI)とトラック密度(TPI)の組合せを調整してフォーマットする技術のようである。これ自体は全然新しいものではなくて、この中に出てくる適用例が5K80なので、2003年頃には使われていたらしい。調べてみると、2000年に当時のIBMが特許をとっている(Method for adaptive formatting and track traversal in data storage devices)。

つまり、プラッタの記録面は、製造工程で(おそらく一通り組み立てた後で)一つ一つカスタマイズされたフォーマットをされるわけである。したがって、シリーズどころか、容量別モデルどころか、HDDの個体どころか、HDD中のプラッタどころか、プラッタの記録面どころか、おそらく記録面中のゾーンごとに記録密度は違う。

実際のシリーズのSpecificationを見ると、以下のような記載がある。まず、ホワイトペーパーで例に出ている5K80の場合。
4.3 Cylinder allocation

Each drive is formatted in the factory test by optimizing TPI/BPI combination. Typical data format is described below.
(この下にゾーンごとのシリンダとセクター数の表が続く)

次に、最近の5K500.Bの場合。
4.3 Cylinder allocation

Data format is allocated by each head characteristics. Typical format is described below.
(同上)

ヘッドごと(=記録面ごと)にフォーマットが違うこと、記載されているフォーマットはあくまで典型的な例ということが分かる。

実際にどうかというと、1プラッタ1ヘッドのHDDであれば記録面は1つだけなので、そのHDDの性能はその記録面を直接反映しているはず。そういうHDDである5K320の80GBモデルを2台、HD Tune ProのBenchmark(Read)で計測したところ、以下のようなグラフになる。
Travelstar 5K320-80 a: HD Tune Pro Benchmark (Read)Travelstar 5K320-80 b: HD Tune Pro Benchmark (Read)

それぞれ比較的きれいな階段状になっているが、明瞭に分かるだけで21、22の段がある。これはこのHDDのプラッタのゾーン数である24と大体一致するので、各ゾーンを示していると考えてよいと思うが、2台の間でのゾーンごとの速度、容量は全くバラバラである。

記録面の単体でもこれだけの個体差があるわけで、それを複数使っているHDDの個体差も相応にあると考えてかかる必要がある。この時点で、全てが個体差に呑み込まれて判然としないまま終わることもあり得るわけだが。

[追記1]

Specificationにおける記載などを追加した。

[追記2]

Adaptive FormattingのホワイトペーパーがHGSTのサイトから消えていたので、詳し目に取り上げてみた(Adaptive Formatting)。

実際の結果は次のベンチマークで。