2009/03/19

プラッタ容量と速度の実際(スペック)

HDDの速度にこだわるのも、SSDに軽く周回遅れにされている中で今更だが、プラッタ容量と速度の関係について少し調べてみた。

(このエントリは一続きのエントリの1/5)

[参考] HDDについての基本情報
ITPro: ハードディスク・ドライブの内部構造
PC Online: ハードディスクドライブのすべて
StorageReview.com: Reference Guide - Hard Disk Drives
(一部の情報は古いので、要注意)

1.1. はじめに

プラッタ容量というか、記録密度と速度の間に相関関係があるのは、原理的にも経験的にも明らかだが、それが実際の製品にどう出てくるかとなると、あまり確たる答がない。原理的な説明はあっても、HDDメーカーが実際の製品にどうインプリメントしているかはほとんどブラックボックス。ベンチマーク結果はそれなりに出ていても、環境がバラバラではHDDの差か環境による差か判別し難い。

そこで、公称スペックを参照しつつ、プラッタ容量を意識して同一環境の下で試すことにした。

結論を先にいえば、自分も誤解していたが、同じシリーズ(世代)のHDDならプラッタ容量は同じ、ではないし、同じシリーズで同じプラッタ容量なら速度も同じ、ではない。既に言われてきたことの確認だが。

実際に試したのは計16台。Travelstar 5K2505K320の全ての容量別モデル、Travelstar 5K500.BとMomentus 5400.5の1プラッタと2プラッタの最大容量モデル。HGSTが主なのは、公開情報の量とバルク市場での容量別モデルの入手性の面で、他に選択肢がないから。Western Digitalと富士通は公開情報が少なすぎるし、Seagateと東芝も流通している容量別モデルは限られる。
16 HDDs

1.2. 公称スペックから分かること

2.5インチHDDは、例外を除いて1プラッタか2プラッタなので、ヘッド数(=記録面数)は最大4。あるシリーズの最大容量のモデルは、2プラッタ4ヘッドの構成で、記録面はシリーズ最大容量(利用可能な全部の面積を使ってシリーズ最高の記録密度でフォーマット)となる。記録面がこれと同じになるのは、以下のモデルの場合。
  • 容量が最大容量モデルの3/4: 2プラッタ 3ヘッド
  • 容量が最大容量モデルの1/2: 1プラッタ 2ヘッド
  • 容量が最大容量モデルの1/4: 1プラッタ 1ヘッド
問題なのは、これと同じ容量でもプラッタ/ヘッドの構成が違うモデルや、これらに当てはまらない中間的な容量のモデルの場合で、記録面としては2通りの可能性が考えられる。
  1. 同じ記録密度の記録面を一部の面積だけ使っている。外周部から必要な容量分だけ使うなど。この場合、遅い内周部を使わない分、平均速度は上がるはず。

  2. 記録密度自体を下げている。線記録密度は同じで、トラック密度だけ下げるのであれば、原理的には速度上のハンデはないが。
なお、これは全ての記録面に共通という前提。HDDは全ての記録面を均等に使っていくので、容量の違う記録面を組み合わせる可能性は低いと思う。

HGSTの場合、公開情報のDatasheetを見る限り、あるシリーズの全容量別モデルについて面記録密度(最大)の記載が共通なので(シリーズによる)、A.だろうと思っていた。この「最大」という部分は、ZBR(Zone Bit Recording)方式では、一つのゾーン内でも外周と内周では線記録密度が変わるので、それぐらいの意味かと思っていた。

実際には、少なくとも最近のシリーズについてはB.である。同じく公開情報のSpecificationを見ると、各容量別モデルについて記録密度の記載がある。自分もSpecificationの存在は知っていたが、以前にあるシリーズのものを見たときは記録密度についてDatasheetを大きく越える情報はなかったので(シリーズによってDatasheetとSpecificationの間の記載の仕方が違う)、見落としていた。

Travelstar 5K160から5K500.BまでのDatasheetとSpecification(2009年2月時点)の記載を並べると以下のようになる。
容量
(GB)
プラッタ
ヘッド
DatasheetよりSpecificationより(注1)
面記録
密度
(最大)
Areal
density
(Gbits
/sq. in.
max)
内部転送
速度
(最大)
Media
transfer
rate
(Mbits
/sec,
max)
線記録
密度
(最大)
Recording
density
(KBPI)
(Max)
トラック
密度
(最大)
Track
density
(KTPI)
(Max)
面記録
密度
(最大)
Areal
density
(Gbit
/sq-inch
- Max)
内部転送
速度
Data
transfer
rates
(buffer
to/from
media)
(Mbps)
Travelstar 5K160
4011131.5540902146131.5540
601276912898.5466
8012902146131.5540
1202476912898.5466
16024902146131.5540
Travelstar 5K250
8012205665902151167530
120121076185200643
160231035172192619
20024-(注2)---
250241100186205665
Travelstar 5K320
80112507291154216250729
120121066182194674
160121154216250729
250231207216261775
320241154216250729
Travelstar 5K500.B
8011-(注2)-1305182242845
120113758751356259360875
160121305182242845
250121356270375875
320231356237329875
400241356215299875
500241356270375875
(注1)DatasheetとSpecificationでは用語や単位の表現が微妙に違う。
(注2)このモデルについてそれぞれ記載がない。

これから以下のようなことが分かる。
  • Datasheetの面記録密度(最大)と内部転送速度(最大)は、そのシリーズの最大容量モデルの値を記載しているだけ。シリーズ中の「最大」という意味ではおかしくはないが。

  • 容量別モデルの記録密度のバリエーションは意外に多い。5K250などは最高の記録密度なのは最大容量モデルだけ。5K500.Bでは同じく1プラッタと2プラッタの最大容量モデルだけである。

  • HDDメーカーは、プラッタ面積に余裕があるときはわざわざデータビットを詰め込んで高い記録密度でフォーマットせず、余裕をとって低い記録密度でフォーマットしている。なぜそうするのかを想像するに、密度はなるべく低い方が、エラーが減る=歩留まりが上がる=コスト削減、となるのではないかと思う。別の見方をすれば、高い記録密度による速度の速さはHDDメーカーにとって優先事項ではない

  • 5K250について、Specificationには200GBモデルの記載がない。このSpecificationの日付は2007年6月で、5K250の生産開始の頃ではないかと思うが、その後は更新されてない模様。また、5K500.Bについて、Specificationにある80GBモデルの記載がDatasheetにはない。こういうところを見ると、これらの文書の内容が最新という保証はない。

  • 5K320について、250GBモデルの方が320GBモデルより記録密度、内部転送速度ともに高いので、Datasheetの記載は実はおかしい。この点は最大容量モデルの値を引き写しただけという惰性を感じる。容量が240GBであれば、320GBモデルと同じ記録面×3で収まったのだろうが、10GB越えたために記録密度を上げる必要があったという、あまりない例。
  • 5K500.Bについて、記録密度のバリエーションは多いが、線記録密度(最大)を2つに固定してトラック密度(最大)で容量を調整している。このトラック密度が変わっても内部転送速度は変わらないので、内部転送速度は線記録密度の関数として扱われている。原理的にそれで不思議ではないが、実際の速度がどうなるかは別問題。
店によっては、同じシリーズのHDDには全て同じプラッタ容量の説明を付けているところがあるが、この時点で間違っている。

1.3. 思考実験してみる

容量別モデルによって記録密度が違うとして、記録面上の物理的なデータ領域の面積はどうなのかという疑問が生じる。利用可能な全部の面積を使うか一部だけを使うかで、物理的な記録面上の位置が変わる、つまりは線速度の影響が変わってくるので。

これは公称スペック自体では分からないので、公称スペックを元に計算してみる。
  1. まずHDDの容量を記録面数(=ヘッド数)で割ると、記録面ごとに必要な容量が出る。
  2. この必要容量をそのシリーズ最大容量の記録面の容量で割ると、最大容量の記録面に対してどの程度の容量が必要かという比率が出る。
  3. この比率と最大容量の記録面の面記録密度(最大)を掛けると、データ領域の面積が同じとした場合に、その記録面が必要な面記録密度(最大)が出る。
表にまとめると以下のようになる。
容量
(GB)
記録面
公称スペック思考実験
面記録密度
(最大)
(Gbits
/sq-inch)
記録面
ごとの
必要容量
(GB)
シリーズ
最大容量
の記録面の
容量との比率
必要な
面記録密度
(最大)
(Gbits
/sq-inch)
プラッタ
容量
(両面)
(GB)
Travelstar 5K160
401131.540100%131.5 80
60298.53075%98.6 60
802131.540100%131.5 80
120498.53075%98.6 60
1604131.540100%131.5 80
Travelstar 5K250
8021674064%131.2 80
12022006096%196.8 120
160319253.3 85%174.9 106.6
2004-5080%164.0 100
250420562.5 100%205.0 125
Travelstar 5K320
80125080100%250.0 160
12021946075%187.5 120
160225080100%250.0 160
250326183.3 104%260.4 166.6
320425080100%(注)250.0 160
Travelstar 5K500.B
8012428064%240.0 160
120136012096%360.0 240
16022428064%240.0 160
2502375125100%375.0 250
3203329106.7 85%320.0 215.4
400429910080%300.0 200
5004375125100%375.0 250
(注)5K320については、便宜的に320GBモデルを最大容量の記録面と見なす。

計算した必要な面記録密度(最大)が公称スペックの面記録密度(最大)に比較的よく合致するのが分かる。したがって、どの容量別モデルも、基本的に同じデータ領域の面積の全部を使ってフォーマットされていると考えてよいと思う。

容量別のプラッタ容量(両面)は、この前提で計算してみたもの。単に、そのモデルの容量を記録面数で割り、2を掛けただけだが。

もう一つ、内部転送速度は線記録密度の関数だとして、その係数を公称スペックから確認してみる。内部転送速度(最大)を線記録密度(最大)で割って比率を出すだけだが、表にまとめると以下のようになる。
容量
(GB)
公称スペック思考実験
線記録密度
(最大)
Recording
density
(KBPI)
(Max)
内部転送速度
Data
transfer rates
(buffer
to/from media)
(Mbps)
線記録密度と
内部転送
速度の
比率(係数)
最大容量モデルの
直前のシリーズから
の伸び率
線記録
密度
内部転送
速度
Travelstar 5K160
409025400.60

607694660.61
809025400.60
1207694660.61
1609025400.60
Travelstar 5K250
809025300.59 122%123%
12010766430.60
16010356190.60
200---
25011006650.60
Travelstar 5K320
8011547290.63 105%110%
12010666740.63
16011547290.63
25012077750.64
32011547290.63
Travelstar 5K500.B
8013058450.65 118%120%
12013568750.65
16013058450.65
25013568750.65
32013568750.65
40013568750.65
50013568750.65

まず同じシリーズの中では、係数はほぼ同じであることが分かる。

違うシリーズの間では、5K160と5K250の間では変わらないが、5K320、5K500.Bとなるにつれ少しずつ上がっている。最大容量モデル同士で直前のシリーズと比べた場合でも、線記録密度の伸び率を内部転送速度の伸び率が上回っている。ということは、線記録密度の向上以外にも何かが内部転送速度の向上に貢献していることになる。

1.4. 記録密度の個体差

記録密度と速度の関係を考えるには、記録面ごとの個体差の問題も頭に入れておく必要がある。自分も記録面にも個体差があるのだろうということは漠然と理解していたが、不良セクタの数(製造時からある、問題にならない部類の)ぐらいかと思っていた。実際には、記録面によって記録密度自体に個体差がある

これについて紹介したものをほとんど見たことがないが、Adaptive Formattingという技術がある。HGSTのAdaptive Formattingのホワイトペーパーには以下のような記述がある。
Each drive is individually tuned at the factory to match the heads and media used in that specific HDD. The media recording surface is formatted with an optimized Bits Per Inch / Tracks Per Inch (BPI/TPI) combination, depending on the performance characteristics of the head associated with that surface.
Using Adaptive Formatting, BPI can vary for each head/disk in the HDD. This creates variability both drive-to-drive and head-to-head.

要は、ヘッドには個体差があるので、それに応じて、相手になる記録面の線記録密度(BPI)とトラック密度(TPI)の組合せを調整してフォーマットする技術のようである。これ自体は全然新しいものではなくて、この中に出てくる適用例が5K80なので、2003年頃には使われていたらしい。調べてみると、2000年に当時のIBMが特許をとっている(Method for adaptive formatting and track traversal in data storage devices)。

つまり、プラッタの記録面は、製造工程で(おそらく一通り組み立てた後で)一つ一つカスタマイズされたフォーマットをされるわけである。したがって、シリーズどころか、容量別モデルどころか、HDDの個体どころか、HDD中のプラッタどころか、プラッタの記録面どころか、おそらく記録面中のゾーンごとに記録密度は違う。

実際のシリーズのSpecificationを見ると、以下のような記載がある。まず、ホワイトペーパーで例に出ている5K80の場合。
4.3 Cylinder allocation

Each drive is formatted in the factory test by optimizing TPI/BPI combination. Typical data format is described below.
(この下にゾーンごとのシリンダとセクター数の表が続く)

次に、最近の5K500.Bの場合。
4.3 Cylinder allocation

Data format is allocated by each head characteristics. Typical format is described below.
(同上)

ヘッドごと(=記録面ごと)にフォーマットが違うこと、記載されているフォーマットはあくまで典型的な例ということが分かる。

実際にどうかというと、1プラッタ1ヘッドのHDDであれば記録面は1つだけなので、そのHDDの性能はその記録面を直接反映しているはず。そういうHDDである5K320の80GBモデルを2台、HD Tune ProのBenchmark(Read)で計測したところ、以下のようなグラフになる。
Travelstar 5K320-80 a: HD Tune Pro Benchmark (Read)Travelstar 5K320-80 b: HD Tune Pro Benchmark (Read)

それぞれ比較的きれいな階段状になっているが、明瞭に分かるだけで21、22の段がある。これはこのHDDのプラッタのゾーン数である24と大体一致するので、各ゾーンを示していると考えてよいと思うが、2台の間でのゾーンごとの速度、容量は全くバラバラである。

記録面の単体でもこれだけの個体差があるわけで、それを複数使っているHDDの個体差も相応にあると考えてかかる必要がある。この時点で、全てが個体差に呑み込まれて判然としないまま終わることもあり得るわけだが。

[追記1]

Specificationにおける記載などを追加した。

[追記2]

Adaptive FormattingのホワイトペーパーがHGSTのサイトから消えていたので、詳し目に取り上げてみた(Adaptive Formatting)。

実際の結果は次のベンチマークで。

1 コメント :

ハードディスク さんのコメント...

記事を拝読しました。HDDのプラッタ容量をよく調べましたね。