(このエントリは一続きのエントリの3/5)
3.1. ベンチマーク自体について
基本的に、複数のベンチマーク結果が傾向として一致しているので、HDDの素の性能を反映していると考えてよいと思う。
- パーティションがない状態でも傾向として一致しているので、ファイルシステム/クラスタサイズ/フラグメンテーションによる影響はない。
- 健康状態に問題のある個体はない。
- PC本体のインターフェイス/電源供給能力がネックになっている兆しはない。
3.2. 5K320-80について
2台の5K320-80について、HD Tune ProのBenchmark(Read)の結果を重ねると(5K320-80aのグラフから読み取った値を5K320-80bのグラフ上に作図)以下のようになる。
この2つの個体は製造時期も同じ、工場も同じ(Travelstarは全部タイ製だが)、ファームウェアも同じなので、記録面の個体差と考えてよいと思うが、結構な差が出ている。先頭で5MB/sの差があり、一貫して5K320-80bの方が高い。この差があって同じ容量ということは、5K320-80bの方が線記録密度が高くて、トラック数が少ないと考えるのが自然。
先のホワイトペーパーによれば、記録面ごとに線記録密度は違うので、それはすなわち記録面ごとにトラック数も違うということになるはず(トラック数が一定とすると、容量を調整できなくなる)。これを敷衍すると、複数の記録面を持つHDDでは記録面ごとにトラックの数/間隔/位置が違うことになり、全記録面に共通するシリンダという概念が成立しなくなるが、どうなのだろう。
3.3. 5K320-120と5K250-120について
公称スペックから予想されるとおり、ほとんど同じ。最大速度は5K250-120の方がわずかに高い(スペック上の線記録密度(最大)は5K250-120の方がわずかに高い)。
3.4. 5K320-250と5K250-250について
2つの5K320-250の差が激しい。5K320-250bは公称スペックから予想されるとおり、160GBプラッタ組を上回っている。線記録密度(最大)の差1207-1154=53(KBPI)にしては、差が付きすぎている感じもあるが。
一方の5K320-250aは、むしろ5K250-250にかなり近い。というか、最大速度では負けている。
もしやと思ったのは、公称スペックでは5K320-250は3ヘッドであること。これが4ヘッドになっていた場合、2プラッタ4ヘッドで250GBの容量となり、5K250-250と条件が同じになる。それに合わせた記録密度になっていれば、速度が近くても不思議ではない。
問題は、ヘッドはサスペンションやアームを含めても非常に軽いので(1g以下)、プラッタ(単体で5g程度)と違って重量から確認できないこと。完動している機械を壊すのはモノに対する態度として気が進まないが、他に方法がないので、5K320-250aの上蓋を開けてみることにした。
ネジ7本(T6×6、T5×1)を外して、上蓋を開ける。
さてヘッドはと見ると、
ビンゴ。ヘッドはしっかり4つある。さすがに、公称スペックと明らかに違うというのは新鮮。まあ、「仕様は予告なく変更することがあります」ということか。
Oct-08製造の5K320-250bは公称スペックどおりのようなので、あえて想像すれば、シリーズ最高の記録密度の記録面は歩留まりが低かったので、記録密度を下げたというのが直球だが、5K320-250aはFeb-09製造で、習熟度も上がりきった頃だろうし、より記録密度の高い5K500.Bの生産も始まっているしで、謎。
ちなみに、5K320-250aは上蓋を開けて写真をとった後、起動してみたら既に死んでいた。他にも試したいことがあったのに。
3.5. 5K250-80について
公称スペックから予想されるとおり、5K250の中では飛び抜けて遅い。
以前に5K160-80(1プラッタ2ヘッドで80GBの容量なので、5K250-80と同じ条件)をCrystalMark 2004で計測した記録があったので、ほぼ同じ条件(環境は一部ドライバを更新したのみ。設定はデフォルトで、5回連続して計測した値から最高と最低を除いた平均をとる)で計測したのが以下。
5K250-80は5K160-80と同じか、やや下回る。この2つは公称スペックでは線記録密度(最大)が902(KBPI)で同じなので、それが反映されたということか。
3.6. 5K320-80と5K320-160と5K320-320について
160GBプラッタ組について、個体差がありそうだが、5K320-80a以外は最大速度が比較的近い。なお、記録面数(=ヘッド数)と速度の間に有意な相関関係がある兆しはない。1ヘッドの5K320-80bが4ヘッドの5K320-320に最大速度で優るぐらいなので。
この容量の記録面では、後述のSpecificationの例によれば、最外周のゾーン0のトラック当たり容量は約738KBになる。CrystalDiskMarkのテストサイズを100MBとすると、100MBは約135のトラックに当たるので、この実行中は少なくともこのトラック間の移動が発生することになる。1ヘッドでは同じ記録面を移動するだけなのに対し、4ヘッドでは記録面間の移動も入るはずだが、違いは分からない。
現在のHDDでは記録面ごとにサーボ情報を見てトラッキングするようなので、記録面間の移動でも単にヘッドを電気的に切り替えるだけでなく、何某かのシーク動作も入るとすれば、同じ記録面での移動と変わらないのかもしれないと思う。
[追記]
HD Tune ProのRandom AccessにおけるIOPSとアクセスタイムを見ても、記録面の構成にかかわらずほとんど同じか、差があっても記録面数と有意な相関関係は見られない。すなわち、記録面数が多い方がシーク動作が少なくなってアクセスタイムが短くなるという現象は見られない。
3.7. 5K250-200について
5K250-200は5K250のSpecificationにないが、5K250の中での速度は思考実験で計算した記録密度から外れてないように思う。
3.8. 5K500.Bについて
5K500.B-500は5K500.B-250を最大速度で5MB/s上回るが、記録面の個体差か。
3.9. Travelstar全体について
記録密度と速度の関係について、内部転送速度は線記録密度の関数と見なし、線記録密度と直接ではなく、公称スペックの内部転送速度とベンチマークの実測値(CrystalDiskMarkのSeq. Read)を比較してみる。
- まず内部転送速度の単位をMiBに変換する。すなわち、内部転送速度(Mbps)÷8(byteへ換算)×{1000^2/1024^2(MBからMiBへ換算。公称スペックの中ではK=1000なので)}。
- この内部転送速度(MiB)でベンチマークの実測値を割ると、比率が出る。
- さらに、中間辺りの5K320-320の比率を基準として、他も同じ比率と仮定してモデルごとの内部転送速度に掛けると、仮定値が出る。
- 実測値と仮定値との差から、速度のバラツキが出る。
略称 (便宜的に) | 公称 スペック | 公称 スペック より計算 | ベンチマーク 結果 | 公称スペックと ベンチマーク結果 より計算 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
内部転送 速度 Data transfer rates (buffer to/from media) (Mbps) | 内部転送 速度 (MiB/s) | CrystalDisk Markによる Seq. Readの 実測値 (MiB/s) | 内部転送 速度と 実測値の 比率 | 5K320 -320の 比率を 基準とした 仮定値 (MiB/s) | 実測値と 仮定値と の差 (MiB/s) | |
Travelstar 5K250 | ||||||
5K250-80 | 530 | 63.18 | 46.04 | 0.73 | 44.55 | 1.48 |
5K250-120 | 643 | 76.65 | 54.55 | 0.71 | 54.05 | 0.50 |
5K250-160 | 619 | 73.79 | 48.68 | 0.66 | 52.03 | -3.36 |
5K250-200 | - | - | 50.20 | - | - | - |
5K250-250 | 665 | 79.27 | 59.73 | 0.75 | 55.90 | 3.83 |
Travelstar 5K320 | ||||||
5K320-80a | 729 | 86.90 | 57.83 | 0.67 | 61.28 | -3.45 |
5K320-80b | 729 | 86.90 | 63.34 | 0.73 | 61.28 | 2.05 |
5K320-120 | 674 | 80.35 | 53.62 | 0.67 | 56.66 | -3.03 |
5K320-160 | 729 | 86.90 | 64.90 | 0.75 | 61.28 | 3.62 |
5K320-250a | 775 | 92.39 | 55.51 | 0.60 | 65.15 | -9.63 |
5K320-250b | 775 | 92.39 | 68.39 | 0.74 | 65.15 | 3.24 |
5K320-320 | 729 | 86.90 | 61.28 | 0.71 | 61.28 | 0.00 |
Travelstar 5K500.B | ||||||
5K500.B-250 | 875 | 104.31 | 84.31 | 0.81 | 73.55 | 10.76 |
5K500.B-500 | 875 | 104.31 | 89.61 | 0.86 | 73.55 | 16.06 |
- 内部転送速度と実測値の比率は、5K250と5K320は大まかに0.7前後(5K320-250aは公称スペックと実物が違うので除外)、5K500.Bは0.8台。
- 5K250と5K320の実測値と仮定値のバラツキは上下に3MB/s台(5K320-250aは同じく除外)。個体差と考えればこんなものかもしれない。
- 5K500.Bで比率が上がっているのは、プラッタとの内部転送から先の性能も上がっているのだろうと思う。
3.10. 5400.5について
5400.5-160と5400.5-320は、最大速度が大体同じで(5400.5-160の方が少し高い)、ある意味理想的なグラフになっている。
ちなみに、シリーズ最大容量が同じ5K320と比べて、シーケンシャル・アクセスでは速いが、ランダム・アクセスでは遅い。
3.11. 全体を通して
共通の傾向として、
- グラフは概ね上に膨らんだ弧を描く(縦軸に速度、横軸に容量ベースの位置をとった場合)。これは縦軸方向の速度はトラック当たりセクター数と正の相関関係にあるので直線的に下がるのに対し、横軸方向は容量ベースであるが故に(HDDの外からはそれしか観測のしようがない)伸びが指数的に減っていくから。円弧と円面積の関係。
- 同じシリーズでは先頭の最大速度での差に比べ、末尾の最低速度では差がかなり縮まる。これは個別に見れば最低速度は最高速度の50%前後で大体揃っているので、変ではない。
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