(このエントリは一続きのエントリの1/2)
1.1. 調べ方
方法はHD Tune Pro(4.0以降。15日間の試用版がある)でHDDを計るだけ。Readで先頭のごく一部を計るだけなので、HDDに特別な準備は要らないし、たいして時間もかからない。なお、フリー版のHD Tune(2.55)では不可。
- HD Tune Proをインストールし、歯車のアイコンからOptionsを開いてBenchmark(HD Tuneの基本のシーケンシャルテスト)で「Full test」にする。この方が乱れの少ない結果を得られる。
普通はFull testにすると時間がかかるが、この方法ではごく一部しか計らないので、問題ない。
- Benchmarkで「Short stroke」(HDDの先頭から指定した範囲だけで計測する機能)にチェックし、1GB(最小値)を指定する。なお、HD Tuneでの「gB」はSI接頭辞のGB(1GB=1,000,000,000Bytes)の意。
- これで計測すると、同じ高さ(速度)で一定の長さの水平線から成る組が繰り返し現れる。この組はShort strokeの範囲を1~10GBぐらいで変えながら計るとはっきりする。
この組の中の各水平線がHDD中の各記録面(の最外周ゾーンを分割したもの)を示すので、この数で記録面数が分かる。
この方法の背景については、過去のエントリ(記録面と速度の実際、プラッタ容量と速度の実際)参照。自分で考えたものだが、今のところ、否定する結果には行き当たってない。
1.2. Deskstar 7K3000の場合
HDD内部の細かいスペックをメーカーは公開しないようになってきているが、HGSTも新しいDeskstar 7K3000では、その前の7K2000までと違ってプラッタ数/ヘッド数をスペックに載せていない(Specificationもサイトに出てない)。
よって、これらは不明だが、店頭では書いてあったりする。それをとくに疑う理由はないが、自分で確かめられるものなら確かめてみたい。これまで記録面を調べてこなかった3.5インチHDDでもあるし。
対象は3TBと、2TB×2の3台。いずれもリテール版。
略称 (便宜的に) | 型番 | 容量 (GB) | 製造 年月 | ファーム ウェア | シリアル ナンバー | 重量 (g) | 組立 工場 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
3000 | HDS723030ALA640 | 3000.5 | 2010/12 | 3B0 | YHG3T8XA | 685 | タイ |
2000a | HDS723020BLA642 | 2000.3 | 2010/11 | 180 | F303KA2D | 664 | 中国 |
2000b | 2010/11 | 180 | F304ALZD | 663 | 中国 |
左から3000、2000a、2000b。
3000と2000は上下とも外観からして違う。というか、共通部分がない。
- 上蓋が違う。左下のヘッドスタックアッセンブリ部分のネジが3000は3本、2000は2本で、位置も違うので、たぶんヘッドスタックアッセンブリが違う。
- ラベルにある12Vの消費電力が3000は850mA、2000は740mAなので、たぶんスピンドルモータが違う。
- シャシーの形状が違う。プラッタの下の部分が3000の方が厚い。
- PCBのパターンが全然違う。
リテール版の箱は共通のものだが、そこにある写真は7K3000発表時の資料に出ているもの(3TBだと思う)とは違う。
このプラッタ数は3で、ヘッドに繋がる配線(黄色の部分)が4段あるので、最上段は下向きに1つ、中間の2段は上下に2つずつ、最下段は上向きに1つヘッドが付いているとすれば、ヘッド数は6になる。まあ箱の写真を信じるかという問題もあるし、参考程度。
CrystalDiskInfo(3.10.0)で見たところ。とくに変わったところはない。キャッシュが32MBと表示されるのは、そういうものらしい。
[追記1]
その後、7K3000のOEM Specが公開された(2TB&1.5TBモデルだけ)。それによると、
- 2TBは3プラッタ6ヘッドなので、下記の結果と合致する。これはいいとして、
- 1.5GBの方も3プラッタだが、ヘッドは「5 or 6」と記載されている。つまり、5ヘッドなら記録面当たり300GBで、プラッタ当たり600GBとなり、6ヘッドなら記録面当たり250GBで、プラッタ当たり500GBとなる。当然、速度も変わり得るわけで、2.5インチHDDにおける3記録面問題と同じ、5記録面問題の勃発である。こういうときこそ、この方法が役に立つわけだが。
[追記2]
3TBモデルのOEM Specificationも公開された。ただ、これはUltrastar A7K3000と一緒のもので、7K3000の3TBはA7K3000の3TBのDeskstar版のようである。つまり、名目上は同じ7K3000シリーズであっても、3TBモデルと、2TB&1.5TBモデルでは実質的に別シリーズだったというオチ。
ともあれ、3TBは5プラッタ10ヘッドなので、下記の結果と合致する。
一応、公称スペックをまとめると以下のようになる。
モデル | ヘッド 数 | 記録面 当たり 容量 (GB) | Max Data transfer rate (Mbps) | Typ Sustained transfer rate (MB/s) | Recording density - max (Kbpi) | Track density (Ktpi) | Areal density - max (Gbits/in2) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
3TB | 10 | 300 | 1631 | 162 | 1445 | 255 | 369 |
2TB | 6 | 333.3 | 1656 | 162 | 1443 | 285 | 411 |
1.5TB | 5 or 6 | 300 or 250 | 1433 | 140 | 1249 | 247 | 308 |
内部写真を見る限り3TBも2GB&1.5TBもプラッタ中央の抑え金のサイズは変わらないようなので、データビットに使える面積は同じだと思う。その上で記録密度を見ると、3TBと2TBは線記録密度(最大)がほぼ同じで、容量の差は下記で推測したとおりトラック密度(最大、だと思う)によることが分かる。
したがって、公称スペック上の最大値としては3TBと2TBの速度はほぼ同じで、後は個体による差、ということになる。
一方、1.5TBのスペックは5ヘッドで記録面当たり300GBの場合のものだと思うが、それにしても同じ記録面当たり容量の3TBよりかなり低い。公称スペックでこれなので、6ヘッドの可能性があることも考えると、同じプラッタ数で500GB違いの2TBと比べて積極的に選択する理由はないように思う。
1.3. 記録面の判別
計測に使ったのはThinkPad X61s。そのICH8-Mの内蔵ポートに対象のHDDを接続し(これと同じ)、Windows 7 64bit上のHD Tune Pro(4.60)で計測した。AHCIのドライバはIntel Rapid Storage Technology 10.1.0.1008。パーティションはない状態
まず3000は、1GBでは組が入りきらず、3GBで繰り返しがはっきりした。組の前半は変化が少ないが、後半に大きく動いて、分かりやすくてラッキー。3GBと6GBでのグラフを抽出したのが以下(便宜的に各水平線にアルファベットを振った)。
面の数は10で、組の長さは約1.5GB。したがって、10記録面、5プラッタということで、プラッタ当たり容量は600GBということになる。
次に2000bも分かりやすい。このグラフが以下。
面の数は6で、組の長さは約1GB。したがって、6記録面、3プラッタということで、プラッタ当たり容量は667GB。
問題なのは2000a。3つの高さの水平線が繰り返すので、3の倍数ということは確定だが、各水平線の長さが飛び抜けて長い。同じ高さでも長さが交互に入れ替わっているように見えるもの(以下のCとF)があるので、別の面と見なせば以下のようになる。
面の数は6で、組の長さは約2.05GB。各面の長さは3000と2000bの倍以上になる。
これらの2GBでのグラフをまとめてみた。
(注)速度はSI単位系のMB/sに換算した。以下同じ。
- 意外なことに速度は完全にバラバラではなく、ばらけているなりに揃っている。3000は2000よりプラッタ当たり容量が少ない分、全体的に低めなのかと思ったが、そうでもないらしい。容量の調整はトラック密度の方でやるということかもしれない(2.5インチの5K500.Bは公称スペック上はそうだった)。
- 速度は最高の面で166MB/s程度、最低の面で146MB/s程度なので、幅は20MB/s程度で、約12%ある。
- この中で160MB/s程度の面を普通とすると、2000aは高い面が多く、2000bは高い面があるが低い面もある、3000は普通が多いといったところ。
この結果をHD Tune Proのグラフと重ねたところ。
速度の変化は一致しているが、CrystalDiskMarkの方が幅は大きい。幅は28MB/s程度で、約16%。
以上で、記録面(の最外周ゾーン)については大体分かった。
1.4. 他の指標との関係
記録面は分かったとして、これが他の指標ではどう出るか。ということで、CrystalDiskMarkを組がほぼ収まる2GBのテストサイズで計ってみた。
2000aと2000bはほぼ同じで、これは上で見た結果と合致する。3000がそれに次ぐことも合致するが、差はやはりHD Tune Proより大きい。
次にHD Tune Proで全体を計った結果。Full testと、Partial testを5段階中の5と、同じく4(デフォルト設定)にした状態。
Partial testのギザギザは、記録面の変化が大きいほど激しくなる傾向があるのが見て取れる。
このFull testの結果をまとめると、まず割合ベースでは以下のようになる。
波形は完全にならされているが、先頭部分が2000a、2000b、3000の順になっているのは、それぞれが持つ記録面の速度が平均化されればこうなるだろうな、という感じ。かつ、その順位がゾーンを通じて大体変わってないことも分かる。
次に容量ベース。
500GBぐらいで2000と3000の順位が逆転する。当然だが、2TBまでの平均でいえば3000が一番高くなる。
さらにPartial testで、100GBから1GBずつ計測する範囲を広げながら計ってみた。
この3000のグラフを抽出したのが以下。
大きな波が出ているのは折り返し雑音のようなものだと思う。計測する範囲が広がるにつれてサンプリング位置が微妙にずれていくが、その小さな違いで大きな変化が現れる。ということを見るに、Partial testのギザギザは、やはりサンプリング位置にどの記録面が当たるかに左右されているように思う。
最後にランダムテストの結果。範囲は10GB、100GB、全容量の順。
10GBと全容量では、3000がわずかに優位だが、ほとんど同じ。
100GBでは、2000a、2000bともに30GBぐらいの位置での値が足を引っ張っているのが分かる。そこで範囲を40GBにしてみたのが以下。
代替セクタでもあるのかと思ったが、2つとも28~32GBの間でランダムに遅くなる現象が起きている。この程度の範囲ならランダムアクセスでもヘッドが動く幅はごく小さいはずだが(肉眼では見えないぐらい)、アームが動く音もする。謎だが、HD Tuneのアクセス方法とHDDの機構との間で何か嵌ったのかもしれない。
1.5. まとめ
- HD Tune ProのShort strokeを使って記録面を調べる方法が3.5インチHDDでも確認された、と考えてよいと思う。
- HDDの(平均化された)速度は、どういう速度の記録面で構成されているかによる。同じモデルなのに速度が違うというときは(それ自体は極めて普通だが)、記録面を調べると何か分かるかもしれない。
- 組の長さが1GBを優に超えるHDDがあることが分かったので、ベンチマークの際には対象範囲を考慮する必要があるかもしれない。
2 件のコメント:
よくぞここまで・・・としか言いようがない素晴らしい記事ですね。圧倒されます。
ありがとうございます。
願わくば、他の方にも試していただいて、違うHDDと環境におけるサンプルも見てみたいのですが……。
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