2012/03/24

HGSTの残照

HGSTが売却前に発表した最後のシリーズの一つであるTravelstar 5K1000が出回り始めたので、確保した。

1. 1TBモデル


購入したのはリテールボックスの0S03509で、5K1000の1TBモデルになる。昨年の大洪水の後にタイで生産された製品ということで、少し「おっ」と思った。
型番容量
(GB)
製造
年月
ファーム
ウェア
重量
(g)
組立
工場
HTS541010A9E6801000.22012/248099タイ

外観は基本的に従来どおり(同じ個体の表裏)。
Travelstar 5K1000

CrystalDiskInfo(4.3.0)で見たところ。とくに変わったところはない。
Travelstar 5K1000: CrystalDiskInfo

これをThinkPad X61sに内蔵し、Windows 7 64bit上で計測。AHCIのドライバはIntel Rapid Storage Technology 10.1.0.1008。パーティションはない状態。

まずHD Tune Pro(5.00)で記録面を確認する。
Travelstar 5K1000: HD Tune Pro (Short stroke)

これは分かりやすい。4つの面の存在が認められる。2GBの結果を見ると、
Travelstar 5K1000: HD Tune Pro (Short stroke)
  • 3つの組で丁度2GBになるので、各組の長さは667MB、各面の長さは167MBの計算になる。5K500.Bではそれぞれ380MB、95MBだったので、75%ほど大きくなっている。

  • 速度は最高の面で119MB/s(SI接頭辞に換算後)、最低の面で112MB/s程度で、幅は6%ぐらいになる。
先頭10GBにパーティションを作り、CrystalDiskMark(3.0.1c)で見てみると、
Travelstar 5K1000: CrystalDiskMark

シーケンシャルアクセスでは114MB/s程度になる。

したがって、1TBで9.5mm厚の世代としては、サムスンのHN-M101MBB、Western DigitalのWD10JPVTと比べると、他の人によるベンチマーク結果を見た限り、おおよそ同程度と言えると思う。

念のため、HD Tune Proで全領域を通して見たのが以下。
Travelstar 5K1000: HD Tune Pro (Full and Partial test)

最外周と最内周の差は2倍程度で、HGSTのHDDでは見慣れた弧を描く。

一応ランダムアクセスも。
Travelstar 5K1000: HD Tune Pro (Random test)

以上、5K1000の1TBモデルがごく標準的なHGSTのHDDであることが確認できた。

2. 他の容量別モデル


さて、1TB以外のモデルとなると、5K1000は選択が難しいシリーズである。というのも、OEM Specificationを見ると、
  • 750GBモデルはヘッド数が「3/4」なので、3記録面問題がある。
  • 640GBモデルは記録密度が1TBモデルより落ちる。
  • 500GBモデルについて、既に流通しているにもかかわらず記載がなく、性能の手がかりがない。可能性としては1プラッタ2ヘッドか、2プラッタ3ヘッドがあり得る(4ヘッドの可能性は、640GBモデルが3ヘッドである以上、除外していいと思う)。
問題は750GBモデルが4ヘッドの場合と、500GBモデルでは2ヘッドであれば何の問題もないが、もし3ヘッドの場合はどうなるかということにある。

というわけで、個人的に推測してみたのが以下の表。
容量
(GB)
プラッタ
/ヘッド
記録面
当たり容量
線記録密度
(最大)
トラック密度
(最大)
面記録密度
(最大)
容量
(GB)
250
との
密度
(KBPI)
1825
との

[c]
[c]と
[b]の
密度
(KTPI)
380
との

[d]
[d]と
[b]の
密度
(Gbit
/sq-
inch)
694
との

[a]
[a]の
平方根
[b]
10002/425011825138016941
7502/4188
[1]
0.75
[2]
1637
[11]
0.90
[10]
1.04
[8]
318
[11]
0.84
[10]
0.97
[8]
521
[11]
0.75
[3]
0.866
[9]
2/325011825138016941
6402/32130.8517230.94
[4]
1.04
[7]
3350.88
[4]
0.97
[7]
5770.83
[5]
0.912
[6]
5002/3167
[1]
0.67
[2]
1543
[11]
0.85
[10]
1.04
[8]
300
[11]
0.79
[10]
0.97
[8]
463
[11]
0.67
[3]
0.816
[9]
1/225011825138016941
(注)マーカーの部分が推測によるもの。小数点付きの数字は実際にはもっと高い精度で計算しているので、通して計算すると合わない。
  1. まず750GBモデルの4ヘッド、500GBモデルの3ヘッドの場合について、容量とヘッド数(=記録面数)から記録面当たり容量を求め[1]、それと1TBモデルの記録面当たり容量である250GBとの比を求める[2]。この比は面記録密度における1TBモデルとの比と基本的に一致すると考えることができる[3](640GBモデルでは0.02のズレがあるが……)。

  2. 面記録密度における比は1TBモデルのプラッタからどれだけ密度が落ちているかを示すが、この落ちた分を線記録密度とトラック密度に反映するために640GBモデルについて検討する。

    640GBモデルでそれぞれ線記録密度とトラック密度における比を求めると[4]、落ち方は同じでない(トラック密度の方が大きく落ちている)ことが分かるので、面記録密度における比[5]からその平方根を求め[6]、これと線記録密度とトラック密度における比との比を求める[7]。

  3. この比が問題の場合にも当てはまると仮定し[8]、これと面記録密度における比の平方根[9]から線記録密度とトラック密度における比を求める[10]。

  4. 最後にこれらの比から線記録密度、トラック密度、面記録密度を求める[11]。
とくに知りたかったのは線記録密度における1TBモデルとの比で、基本的にシーケンシャルな速度は線記録密度に比例すると考えられるので、1TBモデルの速度を115MB/sとすると、これから以下のように計算できる。
  • 750GBモデルの4ヘッドの場合: 115×0.90≒103 (MB/s)
  • 500GBモデルの3ヘッドの場合: 115×0.85≒97 (MB/s)
ただ、例によって個体差でこれから10MB/sぐらいは上下すると思う。したがって、実際の個体では、波形を見て記録面を調べるか、500GBモデルの場合は重量でプラッタ数は判別できるだろうから、そちらの方がすっきりするとは思う。

3. 最後に

Travelstar 5K1000

さる3/9に日立はHGSTのWestern Digitalへの売却完了を発表した。これに伴ってWestern Digitalは3.5インチ事業の一部を東芝に売却し、またサムスンのHDD事業もSeagateに売却されたので、今後は2.5インチ、3.5インチとも残る三社が競争する時代になる(さすがにこれ以上は独禁法の関係で減らないだろうが、純粋に競争で脱落する社が出た場合はその限りでない)。

IBMから日立に売却されたときは、看板の掛け替えだけで実質的に存続したのはIBMのHDD事業だったが(ということもあって、個人的には「日立」ではなく「HGST」と呼んでいた)、今回はWestern Digitalも十分なラインがあるので、HGSTのラインは当面は残るにしても、いずれは消えるのだろうと思う(エンタープライズ向けはともかく、コンシューマ向けは)。

個人的には、初めて買ったPCに入っていたのがCaviarで、しばらくそのシリーズを使っていたし、トラブルがあったのは3.5インチの方なので、Western Digitalに抵抗感はない。最近はHGSTが多かったが、元々HDDメーカーに強いこだわりがあるわけでもない。スピンドルモーターがボールベアリングだった時代の末期はどこも等しく騒音がひどかった。あの時代にあのような製品を、競争とはいえ平気で生産していたメーカーは企業としてどうかと思う。

一方、HGSTはIBM時代から細かい情報を割と気前よく公開していて、その面では他社と段違いだったので(Western Digitalはその面では最低)、それがなくなると自分のような計算はできなくなる。もっとも、ゾーンごとのセクタ数が云々とやっていたのは自分ぐらいだろうが……。いや、むしろ公開されてないからこそユーザーが持てる手段で調べる必要が出てくるのかも……。そもそも、HDDの細かい性能差など今時そんな真面目に追求するものでも……。どっちだ。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

個人的にもHGSTが無くなるのは非常に痛手です。
ReadyNAS(Ultra4)で使うのに、低回転数の5Kシリーズが
低発熱・低騒音で重宝してたんですけどね。
スペックシートもきっちり見れたのも助かりました。

WDのCaviar GreenはIntelliParkやらNASに使うには信用できないし
SeagateはBarracuda Greenを止めてしまうと発表してしまいました。
どこを買えば良いのかと…途方に暮れています。

>もっとも、ゾーンごとのセクタ数が云々とやっていたのは自分ぐらいだろうが……。
>いや、むしろ公開されてないからこそユーザーが持てる手段で調べる必要が出てくるのかも……。
>そもそも、HDDの細かい性能差など今時そんな真面目に追求するものでも……。

いや本当にとても貴重で有難いです。一級品の資料です。

EMO さんのコメント...

>どこを買えば良いのかと…途方に暮れています。

HGST以外は公称スペックがアバウトすぎて、あまり参考にならないですよね。2.5インチは、こだわるなら東芝にしとけばいいかなと思いますが、3.5インチは難しいですね。

特定のモデルやロットに関係する問題を回避するには、なるべく分散させるとかでしょうか。NASでは細かい性能差はどうせ出てきませんし。

>いや本当にとても貴重で有難いです。一級品の資料です。

ありがとうございます。もしよろしければ、波形のデータをもっと見たいので、試してみてください。

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