2010/07/22

はやぶさプラモデル(工作中)

ようやく『はやぶさ』プラモデルの工作が一段落付いてきた。何でそんなに時間をかけているのかというと、ほとんどの部品について手のかかる工作をしているから。

1. 考証の問題


考証といってもあまり難しいことを言うつもりはないが、どこを修正するにしても資料が必要で、その資料が正確でないと折角修正しても後でがっかりなことになる。実際、これに随分振り回された。

問題は何を参考にするかで、結論から言えば、小惑星探査機「はやぶさ」写真集の実機写真がほぼ唯一信用できる。これに加えて、MUSES-C FM総合試験の組み立て中の写真からサーマルブランケットで分かりにくい部品配置が確認できる。

逆に、これら以外は相模原の実物大模型(熱・構造試験モデル)を含めて参考とするに足らない。

この実物大模型、アオシマでも参考にした節があるが、実機写真と子細に見比べていくと正確でないところが多々ある。目立つ部分を挙げると、
  • 再突入カプセルが赤銅色ぽい塗装になっている(実機では他の部分のサーマルブランケットとほとんど変わらない)。
  • 本体角にある化学推進エンジンの基部の形状が違う。軸線も少し浅いように見える(実機ではもっと上下に立っている)。
  • 太陽電池パドルの支持架が前後に長すぎ、本体との取り付け位置もずれている。格納・展開機構らしきものもない。
  • 太陽電池パドル上の電池がない部分の形状が(確認できる範囲でも)少し違う。
  • 高利得アンテナの上にある低利得アンテナが右方向にねじれている(実機では真っ直ぐ)。
  • 再突入カプセル側の中利得アンテナ(MGA-A)の基部にある円筒がない。
  • 本体両側面の機器の配置が微妙に違う。
  • イオンエンジン部分の蛇腹の質感が違う(実機ではもっと柔らかい感じ)。
結局、参考になるのは伸びた状態のサンプラーホーンの構造ぐらいしかない。

2. 工作状況


一通り部品の修正を終えたところ。

本体前面(再突入カプセル側)


再突入カプセルはキットではぷっくり膨らんだ半球形で、完成写真を見て一番違和感があった。実機では先端が丸まった低い円錐形なので、大きく削り込んで修正。位置も少し引っ込める。

角の化学推進エンジンの基部は正確でないので、プラ板を当てて削って修正。中心上の角のようなものは中利得アンテナ(MGA-A)の基台で、強度を考えて上面と一体化。その横のホーンが位置する部分は本体に切り欠けがあるように見えたので、切り込んだ。その他、スタートラッカの基部を大きくし、Xバンドパワーアンプにひさしを付けた。

本体後面・下面


化学推進エンジンの基部を前面同様に修正。フラッシュライト周辺をプラ板で作り込み。右側の箱は蛍光X線スペクトロメーター(XRS)の場所違いのようなので、右側面との縁に移設。この他に広角航法カメラ(ONC-W)、近赤外線分光計(NIRS)があるはずだが、実機写真になく、資料も見つからない。

右側面


放射率可変素子の窓が正確でないので、上の部分は埋めて、下に大型化。ひさしも付ける。二箇所の穴を開口。

左側面


実機にあるパネルが2つないので、大きい方は削り込みで、小さい方は開口してプラ板を段差を付けて嵌めることで表現。中心の縦のモールドに当たるものは実機にないので埋める。二箇所の穴も開口。

ミネルバ


横に切断して高さを詰めた。横のモールドは消えるが、キットではかなりの樽型なので、どっちにしても修正は避けられない。本体下面のミネルバケースに収まる。

中利得アンテナ(MGA-A)


正確な形状が分からず、何度も作り直した。JAXAの模型、CGのいずれにもこれを正確に再現したものがない不思議。問題は基部にある円筒形の部分で、組み立て中の写真では上に向かって斜めにそぎ取られた、角張った金物になっていて(JAXAの模型でもその形状)、完成状態とは違う。

サンプラーホーン


回りのワイヤー状のフレームや先端の短冊状の板など色々試作してみたが、細かすぎて諦めた。スケール的に工作の限界を感じる部分。

ダクト部分は真っ直ぐに整形し直した後、バネを巻き付けて螺旋状の芯を表現(本当は回転方向が逆)。その下のホーンは痩せすぎなのでパテを盛り付け、ダストガードとの境目にワンポイント的に7mmの銅パイプを嵌め込んだ。先端は削ってテーパーのない円筒形に。根本はネジを埋め込んで(本体にはナットを埋め込んだ)、完成後に脱着できるようにした。

高利得アンテナ


キットでは高利得アンテナの反射鏡のフレームをぶった切る形で三脚の支柱の穴が開いているが、実機をよく見ると反射鏡が少し回して取り付けられ、フレームが支柱と干渉しないようになっている。少し間抜けに見えるので、そこだけ修正しようとナイフを握ったら、ざくざく肉抜きを始めていた。

フレームが切れている部分は0.6mmのピアノ線を通し、パテで整形。実機の薄さに近づけるべく削り込んでいくと折れる箇所が相次いだので、いい加減で諦めて最外縁はパテで整えた。問題はこれに貼るメッシュの選択で、実機では目が見えないほど細かいものなので(ボックスアートの網目は大げさ)、実は一枚板でも同じような気がする。

三脚の頂点の下側、反射鏡の焦点にある特徴的な半球がキットのものでは小さすぎるので、Waveの丸パーツ(Iチップの6mm)で代替。実機は半球より少しはみ出した微妙な形なので、削って形を出す。三脚は強度も考えて2mmのアルミ板に0.8mmのピアノ線を曲げて差し込み、それに1.2mmのステンレスパイプを通す形で作り直し。正確な形状は後で低利得アンテナと合わせて出すつもり。

この三脚と反射鏡を組み合わせるとこんな感じ。

ちなみに、三脚の上側に付く低利得アンテナは実物大模型ではテキトーで、むしろキットの方が実機に近い。

[追記]

三脚の基本的な形状ができた。実機のようにサーマルブランケットがかかった状態を表現。

架台部分は骨組みとなる2mmのアルミ板の下に1.2mm、上に0.5mmのプラ板を貼り合わせ、側面をパテで整形している。キットの低利得アンテナを利用し、その基台の円柱の中心、三脚の中心、半球の中心に0.8mmのピアノ線を通して工作時の基準にしたが、低利得アンテナが後ろすぎたので、わずかに前に出している。

三方向から見たところ。アルミ板が露出しないよう少し削ってからパテを付けたが、調整しているうちに後ろは出てしまった。右後方の支柱に付く出っ張りは1.2mmのプラ板に0.6mmのピアノ線を通して固定し、厚みを足すために0.3mmのプラ板を貼り合わせた。

下から見た状態。3本の支柱の間に半球がぴったり収まる。

太陽電池パドルの支持架


太陽電池パドルの支持架はキットでは強度重視の形状で、考証は捨てている感がある。いずれにしても実機写真がないので、正確な形状は確認できない。問題は前後の横桁の間にある縦桁の位置で、資料によって本体寄り、ほぼ中間(実物大模型)、パドル寄りの三通りがあって、判断に困る。概して、古めの資料では本体寄り、新しめのCGではパドル寄りのことが多い。

また、この桁の接合部分に補強の当て板が付いているものがあるが、この正確な形状も分からない。とりあえずボックスアートに倣って控えめなものを付けてみた。ちなみに、ボックスアートは横桁の取り付け位置が実物大模型と同じく間違っている。

パドル自体については、1枚だけから出ている4本のピンの長さの問題がある。キットでは短いが、実物大模型では長めに突き出している。格納状態の実機写真では短いので、キットの方が近い。ただ、展開状態では長くなるのかもしれず、よく分からない。あえて推測すると、他の2枚には対応する位置に穴があるようなので、格納状態では他の2枚を差し貫く形で固定していて、展開するときに抜けて長く出る仕組みなのかもしれない。

3. 感想


まだ道半ばであるが、あえて言いたい。

このプラモデルをもう1機作るかと聞かれると、正直厳しい。実機にそれなりに忠実に作ろうとすると、必要な工作量が馬鹿にならない。

ガレージキットでアップグレードパーツを出すところがあれば、自分は買う。とくにサンプラーホーン、再突入カプセル、イオンエンジン、中利得アンテナ、高利得アンテナを希望。

[追記]

早速、ワンダーフェスティバルで『はやぶさ』用エッチングパーツの試作品が出ていた模様。サンプラーホーン、化学推進エンジンの覆い、太陽電池パドルの配管、本体側面のパネルなど。アンテナなども予定にあるようなので、大いに期待。